注射材は経口投与される薬剤と違い、直接体内に投与されるものです。つまり、腸内の異物除去機能を通過することがありません。注射材に異物が混入していても除去されることなく血中に混入して体内を巡り、体内で蓄積されるなどの問題が起きます。

異物検査を徹底することは注射材の製造工程上の問題点も発見することになります。結果として、注射材の品質改善にも非常に重要な役割を果たすことになるのです。

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不溶性異物または微粒子の検査法に関して

日本の注射材の不溶性異物や微粒子の検査規定は日本では日本薬局方にあります。検査方法は「6.06注射剤の不溶性異物検査法」と「6.07注射剤の不溶性異物検査法」に規定されています。「6.06注射剤の不溶性異物検査法」は目視検査、「6.07注射剤の不溶性異物検査法」は光学機器を使用した検査です。

「6.06注射剤の不溶性異物検査法」で発見することが困難な不溶性微粒子を逃さないために、「6.07注射剤の不溶性異物検査法」が考案・開発されました。現在、注射材の不溶性異物や微粒子の検査規定に関して国際的な協調はあまり進んでいません。

しかし、欧米にも同様の規定は存在します。現在、欧米の規定や日本の規定を国際協調する方向が進められています。そのため、いずれは国際的な基準が設けられると考えられます。

不溶性異物と不溶性微粒子の違い

不溶性異物と不溶性微粒子の違いを一言で言ってしまえば、不溶性異物は目に見える異物、微粒子は目に見えない異物ということになります。不溶性異物の検査は目視で行われます。しかし、微粒子の検査は目視できないので、何らかの光学機器を用いて行われます。

注射材に不溶性微粒子が混入したまま注射され、体内に異物が入ってしまうとそれらの異物が何らかの副作用を起こす可能性があると考えられています。しかし、現在その可能性の程度や副作用の種類、状態や結果に関して明確なデータがありません。

したがって、不溶性微粒子を除去することによって注射材で起きる副作用を防止できるのか?防止できるとしたら、どの程度防止できるのかもわからない状態です。不溶性微粒子の検査を徹底する目下の目的は、製造工程の改善に置かれているのが現状です。

不溶性異物と不溶性微粒子が及ぼす影響が明確に確認できていないにしても、副作用の可能性が考えられる限り、それを取り除いたり発生させないようにできる製造工程の開発は有意義であると考えられています。


外来性について

日本薬局方の「6.07注射剤の不溶性異物検査法」には外来性という言葉が使われています。外来性とは注射材に配合されている成分以外から混入した異物のことであり、製造工程中に何らかの事情で混入するものです。「6.07注射剤の不溶性異物検査法」では、これが大きな問題であることを指摘しています。

問題のある異物が混入するとなれば、その製造工程に不備があるのではないかと疑います。もし、外来性の異物でなくても、注射材の中に不溶物が混入していればユーザーは不安になるでしょう。そのため、それが外来性でなくても製造工程上不溶物を混入させない、または不溶物を発生させないような製造工程の研究が行われています。

蛋白製剤などは不溶物が発生しやすいので、ユーザーに対して明確な説明が付くようなデータを収集することも大切です。

6.06注射材の不溶性異物検査法 第1法

注射材の不溶性異物検査法は、注射材中の不溶性異物の有無を調べる検査法です。第1法では溶液,懸濁液、乳濁液である注射材と用時溶解又は用時懸濁して用いる注射材の溶解液などの異物検査法を示しています。容器の外部を清浄して、約1000lxの白色光源の直下での目視で検査します。

プラスチック製水性注射剤容器を用いた注射材では上、下部に白色光源を用いて8000∼10000 lxの明るさの位置から目視で観察します。この2つのどちらかの検査で見つけられる不溶性異物は混入してはならないと定めています。

懸濁液とは液体中に粒子が分散したもので、長時間置くと微粒子が沈んで安定する溶液のことです。また、用事溶解とは使用するときに溶かして使うもの、用事懸濁とは使うときに懸濁状態にするもののことです。


6.06注射剤の不溶性異物検査法 第2法

第2法では用時溶解又は用時懸濁して用いる注射剤の検査方法を示しています。容器の外部を清浄にして異物が混入しないよう十分に注意しながら、添付された溶解液や注射用水を用いて溶解又は懸濁します。白色光源の直下、約1000lxの明るさの位置で目視できる不溶性異物を含んではならないと規定されています。

目視検査では検査技師の技能が非常に重要になります。時には体調によって、検査結果が変わることも予想されます。

6.07注射剤の不溶性微粒子試験法

第1法の光遮蔽粒子計数法と第2法の顕微鏡粒子計数法が規定されています。注射剤のすべての不溶性異物が第1法で見つかるとは限りません。透明性が低くかったり、粘性の高い乳剤、コロイド、リポソーム、センサー内で気泡を生じる注射剤などは第1法で試験するのは難しいので、その場合は第2法で試験します.注射剤の粘度が高すぎて試験が難しい場合には、適宜適当な液で希釈して粘度を下げてから試験します。

それぞれに装置、手動法、電気法、自動法などの検査方法が定められています。装置は微粒子の粒径及び各粒径の粒子数を自動的に測定できる光遮蔽原理に基づいた装置、双眼顕微鏡、微粒子捕集用ろ過器及びメンブランフィルターなど精密な光学機器を使用して行う検査で目視主体の「6.06注射剤の不溶性異物検査法」とは全く異なる検査方法です。

光学機器を駆使するため、検体の状態や検査結果のデータの取り方などが非常に綿密です。6.07注射剤の不溶性微粒子試験法では検査機器が非常に精密なため、外部からの刺激や異物の混入が検査結果を大きく狂わせることになります。

そのため、検査をする環境整備も大切です。望ましいのはクリーンキャビネット中で行われることです。

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注射材の異物検査の重要性

一般的な内服薬の場合は、口腔から消化器を経由して腸まで届き、その後血中に薬剤の成分が取り込まれて体内に運搬されます。その消化器官を通過する中で身体によくない成分が見つかった場合、嘔吐や下痢などの様々な方法で体内に排出されます。

しかし、注射液は直接血管内や筋肉内に届けられてしまいます。そのため、注射は薬剤の効果が早く表れる投薬方法です。ですが、もし体に良くない成分が混入していた場合に体外に排出する機会がありません。注射剤の異物検査は経口投与の薬剤に比べると、その重要性は非常に大きなものになるのです。